*家族信託は、生前対策の一つの方策です。
民事信託の最大のメリットは、「ご自身の想いを後の世代へしっかりと届けて実現することができる」という点です。
同じような仕組みに「遺言」がありますね。
では遺言との違いは何でしょうか。
遺 言・・・ご自身が死亡した後に効力が発生。生きている間の財産の承継はできない。また、ご自身が指定した「財産を残したい人」がさらに死亡した後の財産の承継については意思を遺すことができない。
民事信託・・・ご自身が生きているうちから効力が発生。また、ご自身が指定した「財産を残したい人」がさらに死亡した後の財産の承継についても決めておくことができる。
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1 家族信託とは
家族信託とは、信頼できる家族に自分の財産を託して適切な方法で財産を管理・処分を任せる為の方法です。
信託銀行の関与や、裁判所の関与は不要ですので、家族間で自由に契約内容を決めて非常に柔軟な財産管理を行う事が可能です。
2 家族信託は成年後見や遺言ではカバーできない部分も補える新しい制度
成年後見制度や遺言では出来なかった様な、財産管理や相続対策等が家族信託ではできます。
ご自身の想いやニーズにより合致した認知症対策や相続対策が可能です。
3 家族信託の基本的な仕組み
主に登場する家族信託の役割としては以下の3つがあります。
① 委託者→財産を託す人
② 受託者→財産を託されて、管理・運用・処分をする人
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③ 受益者→信託した財産から発生する収益を受取る権利(受益権と言います)を持つ人
この例では、父が息子に不動産と金銭を信託しています。
息子は受託者として管理・運用・処分を行いますが、不動産から得られる家賃収入や売却した際の売却代金は受益者である父のものです。
4 家族信託の5つのメリット
① 認知症対策として使える
家族信託を元気な内に設計しておけば、家族に財産管理を託せますし、もし本人が認知症になって判断能力が低下したとしても受託者が本人に代わって財産管理を行えますので、認知症になっても資産が凍結状態にならないので受託者によりスムースな財産管理が行えます。
例えば、子供を受託者にして家族信託をしておけば、親が老人ホーム等に入所して空き家になった実家を子供の判断で処分して親の生活費にあてるというような事が可能なのです。
② 成年後見の代わりに柔軟な財産管理ができる
成年後見制度とは、認知症等により判断能力が十分でない方の財産管理や契約行為を援助する為に家庭裁判所に申立をしてその方を援助する成年後見人を選んでもらう制度です。
成年後見制度には以下の様なデメリットが有ります。
⑴ 家庭裁判所の監督を受けるので定期的な報告の義務が有る。そしてその事務の負担が大きい
⑵ 司法書士等が後見人に選任されると生涯に渡り報酬がかかる。(月額2万~5万)
⑶ とにかく本人の財産を保全する事しか出来ない。例えば相続税対策は一切できなくなる。なぜなら相続税対策は本人の資産の評価を減らして圧縮するのが一般的ですので、それは本人の財産を保全する事にはならないからです。
成年後見と違い家族信託は家族間で行いますので、報酬も不要(設定する事は自由)ですし、信託契約の目的の範囲内なら受託者が財産を運用したり処分する事もできますので相続税対策も可能なのです。
③ 自分が亡くなった後の次の相続についても指定できる
家族信託を使うと、自分が亡くなった後の次の相続についても誰に相続させるのか指定する事が出来ます。これを「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と言います。
例えば、一旦後妻に自宅を相続させて、後妻が亡くなったら実子に自宅を相続させるという様な事が可能なのです。
遺言では自分が亡くなった時の事しか指定が出来ませんので、次の相続についても指定できるのは家族信託の大きなメリットです。
④ 倒産隔離機能という機能が有るので財産が守られる
家族信託では、財産を受託者に託します。仮に受託者が自分の借金等で自己破産する様な事になっても、託した財産は守られます。
なぜなら受託者個人の私有財産と託した財産は法的に分けられていますので、託した財産が破産等の影響を受けないのです。
⑤ 不動産の共有を回避できる
どうしても不動産を共有し無ければならない様な場合に、家族信託を使って実質的に共有を解消する事に近い形を作る事ができます。
これにより、不動産を共有する事によるトラブルの防止や、不動産を売却できなくなる不動産の塩漬けの防止をする事が出来ます。
例えば、不動産を共有しているAさんとBさんのご兄弟がいます。共有を解消する為にはどちらかが相手の持分を買い取るか、売却して売却代金を分ける位しか今までは方法が有りませんでした。
しかし、家族信託を使って下記の図の様にAさんの持分をBさんに信託をすれば、その不動産から得られる収益や売却の際の売却代金はAさんに入るようにしたままで、今後はBさん1人で管理・処分が可能となり実質的には共有を解消したのと近い状態を作れます。
上手く使えば収益性の高い不動産を無理に売却をする必要も無く、そして売却の必要性が生じた時にはBさん1人の判断で売却をする事も可能ですので不動産が塩漬けになってしまう事も防止できるのです。
参考記事
→ 家族信託の注意点
→家族信託と税金