1:成年後見人は「財産保全」以外の行為はできない
認知症など、判断能力が低下した高齢者を支援する制度として、成年後見制度には法定後見制度と任意後見制度がありますが、いずれも家庭裁判所の関与が不可欠です。
一般的な財産の管理や処分については成年後見人が行えますが、成年後見人は常に家庭裁判所の監督下にありますので、財産保全を行う以外の行為はできません。
たとえば、親族が事業に失敗して多額の債務を背負う事態になってしまっても、被後見人の財産を使って資金援助することはできません。また、孫などの親族に教育資金等の贈与を行うといったこともできません。つまり、家族のために被後見人の財産を消費することができないのです。
さらに、被後見人の配偶者が死亡したとき、その遺産分割において、後見人は必ず遺留分の主張をしなければなりません。しかし、このような過度の財産保全は、被後見人の本意ではないでしょう。
2:信託なら「相続対策」ができる
このような問題が伴うため、成年後見制度よりも信託を活用するほうがよいと考えられます。信託であれば、過度の財産保全を求められることなく、委託者の意思を実現することができます。家族のために使うことや、相続対策を実行することも可能です。高齢者が判断能力を失うまでに信託しておけば、受託者は委託者の指示に従わなければなりませんし、判断能力を失ったあとでも、信託契約にしたがって財産を管理することになります。
高齢者の希望を実現するために自由に財産管理を決められることから、信託の活用が効果的といえるのです。
3:自社株式の信託では会社支配権の移転を留保できる
自社株式を信託すれば、その経済価値である受益権を生前贈与し、議決権指図権を継続保有することによって、会社支配権の移転を留保することができます。たとえば、まだ経営権を与えるには未熟な後継者に対し、先行して自社株式を贈与したいと考えるケースです。
ただし、このように自社株式の経済価値から議決権を切り離す手法は、信託に限ったものではなく、無議決権株式や拒否権付株式など種類株式の発行によっても同様のスキームを作ることができます。
4:信託は手続容易で登記不要
種類株式の発行には、株主総会での特別決議や特殊決議、種類株式の内容の登記が必要です。また、既存株主の株式の種類を変更するには、全株主の同意が必要となります。一方、信託であれば、当事者間の契約のみで効力が発生します。また、登記を行う必要がないため、支配権の所在を第三者に知られるおそれはありません。
5:拒否権付株式には問題が伴う
後継者へ自社株式を贈与しつつも、重要な意思決定だけ影響力を残したいと考える場合、株主総会の決議を拒否する権限を付与した種類株式(拒否権付株式)を発行することが考えられます。
しかし、拒否権付株式を発行しますと、普通株式の株主が積極的に意思決定することができなくなり、株主間で対立する原因となります。また、拒否権付株式を後継者以外の者が相続してしまわないように事前の対策(生前の株式消却など)を講じる必要があります。
これに対して、信託であれば、会社に対する影響力は議決権指図権という形でその所在が明確になるため、これらの問題が生じるおそれはありません。
6:遺言書には問題点も…
自分の遺産を確実に相続させたいと考える場合、最初に思い浮かぶ方法が遺言書を書くことです。しかし、相続発生時に遺言の執行をするためには、ある程度の期間が必要であり、その期間は財産の処分ができなくなります。
【遺言執行の流れ】
① 相続人への執行者就任通知
② 遺言書の開示
③ 財産目録の作成
④ 遺言執行
また、遺言書を書いても遺留分の問題が伴います。たとえば、長男・次男の2人の子供がいて、長男は極めて親不孝、次男はとても親孝行であるような場合、父親は次男に全財産を遺したいと考えるでしょう。仮に、遺言書にその旨を記載しておいたとしても、親不孝な長男が自分の遺留分減殺請求権を行使してくる可能性があります。
7:遺言書で心許ない場合は「遺言信託」の活用を
遺言書よりも確実な方法として、遺言信託を活用する方法が考えられます。遺言信託は、委託者の死亡時に効力が発生する信託契約のことです。すなわち、委託者が死亡したときにその遺言の内容にしたがって信託の効力が発生するというものです。
信託契約があれば、家庭裁判所等における手続を必要とせず、ただちに受益権が移転されることになります。