①当事者を永く拘束する
家族信託契約で解説したように自分が亡くなった後の相続についても指定する事が可能です。これはメリットでも有りますが、その裏返しとして当事者を永い期間家族信託契約の影響下に置く事になります。
家族信託を検討する段階では、自分の想いを実現する事とその影響下に置かれる家族とのバランスを取る事を考えて家族信託を設計しましょう。
② 信託不動産から出た損失を他の所得と合算できない
収益不動産を家族信託契約の対象にした場合は、その不動産が年間収支で赤字であったとしてもその赤字は無かったものとみなされます。
ですので信託した不動産に関する損失は、信託財産以外からの所得と通算する事が出来ないのです。信託契約を複数に分けた場合も、信託契約をまたいでの損益通算は出来ないので注意しましょう。
家族信託を検討する際は、専門家と良くしミューレーションをした上で進めましょう。
③ 家族信託を行う事自体は節税にはならない
家族信託を行う事自体では節税にはなりません。
ただし、家族信託契約で将来必要な時に相続税対策もできる様な内容にしておけば、結果として相続税が節税になることは有ります。
④ 遺言に比べて手間がかかる
家族信託は契約ですので、委託者と受託者の合意が無いと成立しません。それに対して遺言は自分一人の判断で作成する事が出来るので家族信託と比較すると手間がかかりません。
家族信託に遺言と同じような効果を持たせる事が出来ますが、その効果を得るだけの目的なら遺言を選択するのがベストです。
例えば、2世代先の相続について指定したい等家族信託を使わなければ実現できない事が有れば、家族信託を選択しましょう。
⑤ 身上監護権が無い
身上監護権とは、医療・介護などに関する契約を本人に代わって行う権利の事です。
家族信託契約では身上監護権を、受託者に与える事は出来ません。
それに対して成年後見制度の場合は、後見人が身上監護権を持って医療・介護などに関する契約を本人の代わりに行う事が可能です。
ただし、実際のところはお子さんで有ればほとんどの場合は医療・介護の手続きを進められる場合が多いので成年後見制度を使うべきかどうかは司法書士・弁護士等と相談の上決定しましょう。
⑥ 受託者に司法書士・弁護士等がなる事は出来ない
信託契約の受託者に我々の様な法律専門職がなる事は出来ません。
なぜなら、我々が報酬を頂いて受託者に就任すると信託業法違反になってしまいますので就任する事は出来ないのです。
⑦ 対応できる専門家が少ない
家族信託を提案して設計できる司法書士・税理士等の専門家は現時点では少数派です。
理由としては、結論が判例等で確立していない部分が残されていて提案するのに消極的な専門家が多いのと、法改正からまだ時間がたっていないのでそもそも家族信託について理解していない専門家が多いという点でしょう。
これから対応できる専門家は増えていくと思いますが、本記事を読まれてご自身に家族信託は使えるかもと思われたらホームページ等を良く確認して家族信託に対応できる司法書士等の専門家を探して相談しましょう。
6 家族信託と遺言・成年後見の比較
① 家族信託と遺言の比較
家族信託では出来るが遺言では出来ない事、その逆に遺言では出来るが家族信託では出来ない事が有ります。
⑴誰にも知られずにできる
→ 家族信託の場合は、最低でも委託者と受託者の2名の合意が無いと成立しませんので自分以外の誰にも知られずに手続きを行う事は出来ません。
遺言の場合は、自分一人で行う事が可能ですので誰にも知られずに手続きを行う事は可能です。
⑵2次相続以降の指定
→ 遺言の場合は自身が亡くなった際の相続については、どの遺産を誰にと決める事は出来ますが、その次の相続(2次相続)については指定する事は出来ません。
家族信託の場合は、2次相続についても誰に受益権を取得させるのか指定をする事が可能です。ですので2次相続以降の指定が可能なのです。
⑶全財産を相続させる
→遺言の場合は、「全財産をAに相続させる」という内容で遺言を作成すれば作成した後に獲得した財産であってもAに相続させることが可能です。
家族信託の場合は、家族信託契約を締結した後に獲得した財産も追加する様に設計する事も理論上は可能ですが、その都度一定の手続きをしなければなりませんので少し手間がかかります。
⑷遺留分減殺請求を受けた場合の財産の指定
→ 相続発生後に遺留分減殺請求を受けて遺産を渡さなければならない場合、遺言で有ればこの順番で渡しなさいと指定をする事が可能です。
家族信託の場合は、その様な順番を決める事は出来ません。
⑸手続きにかかる費用
→ 家族信託の場合にかかる費用は、主に専門家に支払う報酬、不動産を信託財産に入れる場合の登録免許税等の実費が有ります。仮に5000万円位の不動産を信託財産に入れて家族信託を行う場合は約50万円~90万円位の費用がかかるでしょう。
遺言の場合は自筆証書遺言と言って自分一人だけで作成できる遺言書なら費用は0円です。専門家に依頼をして、公正証書で作成をしたとしても通常は15万円~30万円位の費用で済みますのでコストの面では遺言の方がかなり安く済みます。
② 家族信託と成年後見の比較
⑴相続対策
→ 家族信託なら信託契約の目的の範囲の中で自由に受託者が資産を処分する事が可能です。よって相続対策も可能な様に設計すれば問題なく相続対策ができます。
成年後見制度は、本人の財産を保全することが徹底された制度ですので、本人の利益にならない事は出来ません。よって、相続対策は本人じゃなくて、相続人となる人の為に行う行為ですので相続対策は一切できないのです。
⑵投資(大規模修繕等)
→ 家族信託契約なら、収益不動産の入居率を上げるための積極的な投資(大規模修繕等)も受託者の判断で行える様に設計をする事が出来ます。
対して、成年後見制度の場合は必要最低限の補修等の為の修繕なら可能ですが、投資にあたる様な行為は行う事ができません。
⑶裁判所の関与
→ 家族信託契約は裁判所の関与は必要有りません。
成年後見制度の場合は、申し立てからご本人が亡くなるまで裁判所の監督下に置かれます。具体的には毎年の収支の報告や、自宅不動産の売却時の裁判所の許可等の事務の負担が有ります。
⑷施設入所等の契約の代理
→ 家族信託の場合は、受託者が本人の代わりに施設入所等の代理を行う権限を与える事はできません。
対して成年後見制度は、成年後見人がほぼ全ての契約を本人に代わって行う事ができます。
⑸費用
→ 家族信託の場合は、設定する段階で専門家報酬等が発生しますがランニングコストについてはかからない様に設計する事が可能です。
成年後見制度の場合は、家庭裁判所の判断で毎月の後見人に対する報酬が決定されます。約2万円~5万円くらいが生涯に渡り発生します。
7 家族信託の手続きの流れと費用
Step1 家族信託を行う目的を決めよう
まずはどんな目的で家族信託を行うのかを決めましょう。
様々なニーズの中から自分たち家族にとって大切な事を目的に選んでいきましょう。
Step2 信託契約の内容を決めよう
次に目的を達成する為にはどんな内容の契約にするかを検討します。
ここが一番時間をかけて考える部分です。専門家に依頼している場合は専門家のアドバイスを受けながら進めていきましょう。
Step3 信託契約の内容を書面にしよう
内容が決まればその内容を契約書として書面に落とし込んでいきます。
この際のポイントはあいまいな表現はなるべく避けて作っていく事と、後の手続き(相続発生の際等の手続き)まで視野に入れて作る事です。我々が関わる場合は、事前にこの内容で登記手続きは大丈夫か等を法務局等と打ち合わせる事も有ります。
Step4 信託契約書を公正証書にしよう
ここは必須では有りませんが、公正証書で作成される事をオススメします。理由としては後の紛争を防ぐという所です。
Step5 不動産の名義を変更しよう
不動産を信託財産に入れる場合は、必ず法務局に対して登記申請をしましょう。
Step6 お金を管理する専用講座を作って送金しよう
信託した金銭をきっちりと信託財産として管理する為に専用の信託口座を開設しましょう。
①受益権の動きで贈与税や相続税が課税される
信託契約の場合は、受益権の設定の仕方と設定後に受益権が動いた場合に贈与税や相続税が課税されます。
まず信託契約のスタートの段階では、委託者と受益者が同一人物で有れば贈与税は課税されません。しかし、委託者と受益者が異なる人物でスタートする場合は贈与税が課税される事も有りますので慎重に設計しましょう。
信託契約がスタートした後は、受益権を誰かに無償で譲渡した場合は贈与税が課税される可能性が有ります。
そして受益者が亡くなった場合は相続税が課税される可能性が有ります。
② 不動産が有る場合は登録免許税がかかる
家族信託契約の中に不動産が有る場合は、登記申請をしなければなりません。
その際は、評価額に0.4%(土地については平成31年3月31日まで0.3%)をかけた金額の登録免許税が必要になります。
仮に土地1000万円と建物1000万円の不動産を登記申請する際は、1000万円×0.4%=4万円、1000万円×0.3%=3万円、合計で7万円の登録免許税が必要になります。
8 家族信託に詳しい司法書士がオススメ
家族信託を取り扱っている士業の中では現時点では家族信託に詳しい司法書士を選ばれるのがオススメです。
そもそも家族信託契約を行う際には不動産が入るケースが多いので、不動産登記の専門家である司法書士を選択すればワンストップでアドバイスが受けられます。
9 家族信託は元気なうちに!
家族信託はあくまでも契約ですので、認知症になってしまった後に行う事は基本的にできません。
少しご自身の体調の変化等を感じ出したら検討しましょう。
早めに行う対策があなたの家族と築いた財産を守る最も有効な手段です。