相続登記の義務化について

所有者不明土地問題の重要な原因の1つが「相続未登記問題」であるとされています。
この点は政府も認識していて、問題解消に向けた様々な取り組みをすでに始めています。

そして、法学者・最高裁判所職員・法務省職員などを構成員とする「登記制度・土地所有権の在り方等に関する研究会」(座長=山野目章夫早稲田大学大学院教授)を発足させ、相続登記を国民に義務付けることが法律上可能かどうかを議論してきました。

2019年2月28日に、この研究会より最終報告書が公表されました。
今後政府は最終報告書をたたき台氏にして、2020年の臨時国会に改正案を提出したい考えです。

相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み

「相続等による所有者不明土地の発生を予防するための仕組み」は、先の最終報告書の中で議論・提案されている内容です。

実は、所有者不明土地問題を予防するための仕組みとしては、いくつかの方法が提案されています。
今回は、最終報告書をもとに相続登記の義務化の話に限って見ていきます。

不動産登記の申請を一律に義務化できるか

現在の法律では不動産の権利関係の登記はそもそも義務ではありません。

所有者不明土地が発生する原因としては相続登記の未了が第一なわけですが、割合としては少ないものの売買・交換等による所有権の移転登記がされていないケースもあります。

ですから相続に限らず、売買や交換や贈与などのケースも一律に不動産登記の申請を義務化すべきとの意見もあります。

しかし、仮に売買などの取引的な行為に基づくケースにも登記申請を義務付けた場合に、当事者間で所有権移転登記をしない旨の特約ができるのか等、検討しなければならない別の問題が生じます。

また、そもそも現在の法律は、登記を備えた上で権利変動を当事者以外の者に主張できるかどうかを契約の当事者に委ねているため、これを法律で義務付けることは適切ではないという意見もあります。

したがって、研究会としては、とりあえずは相続登記に限るべきではないか、という結論のようですが、引き続き検討はすべきだと意見しています。

建物についても登記申請義務はある?

研究会の最終報告によると、「土地の登記義務」だけを主に議論しているようです。
確かに所有者不明の建物も社会問題としてあります。
また、敷地権付のマンションは建物と土地が一体化している為、これとの整合性をどうするのかという問題も別にあります。

したがって、研究会は建物について登記義務を課すことも引き続き検討すべきであると意見しています。

しかし、そもそもこの話の発端は「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針(平成30年6月1日所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議決定)」にあるので、土地についてのみです。
ですから、建物についての相続登記の申請義務は課されないのではないかと個人的には思います。

対象となる権利は?

不動産登記法上は、登記することができる権利は所有権だけではありません。
地上権や永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権、採石権、(配偶者居住権)も登記できます。

そうすると、相続登記を義務付ける権利を所有権に限定する必要はない気もします。
しかし、所有権以外の権利は所有権と比較すればそれほど重大な権利とも呼べません。

ですから、まずは所有権のみを相続登記申請義務の対象とすることが結論とされています。

登記義務を履行する場合としない場合

土地の相続登記申請を法律上の義務とした場合であっても、その義務が任意に履行されなければ、登記申請を義務化した目的はまったく達成されないまま終わってしまいます。

ですから、いつまでに登記義務を履行すればよいのかというタイムリミットを設け、義務を履行する場合のご褒美と、義務を履行しなかった場合の罰則も設けるべきではないかと議論されました。

いつまでに登記義務を履行すればいいのか

研究会は、「現時点において登記申請を履行すべき期間を具体的に設定することは困難である」としています。
しかし、「相続放棄の期間(相続の開始を知ったときから3か月)」は参考になるのではないかと意見しています。

登記義務を履行する場合はインセンティブが付与?

上記の期間内に相続登記の申請義務を履行する場合には、何らかのメリット・インセンティブを与えることを検討しています。

例えば、価値の低い土地を相続した場合には、その手続き的な負担に見合うほどのメリットは得られないわけですから、積極的に義務は履行されない状態となるのは現行法どおりでしょう。

ですから、登記手続きを簡略化したり登録免許税の減税措置を期間を限定せずに実施すべきだという意見もあるようです。

登記義務を履行しないと罰則あり?

反対に相続登記申請をすべき義務がある者が、その申請を怠ったときは罰則を設けるべきではないかとされています。

例えば、不動産登記法は、表示に関する登記(不動産の物理的現況を公示する登記で例えば土地が○㎡であるとか建物が鉄筋コンクリート造であるとか)について、登記を怠った場合は10万円以下の過料に処するとしています(不動産登記法第164条)。

しかし、10万円程度の過料では、相続登記手続に要する費用がこれを上回ってしまい、実効性を欠くのではないかという指摘もされ、この点は引き続き検討課題としています。

また、相続登記義務を怠っているという事実を、国(法務局)がそのように捕捉するのかも課題です。
登記申請がされた時に義務違反が発覚し過料の制裁を受けるのであれば、今以上に申請を控える事態が生じるのではないかという意見もあります。

相続登記は義務化の方向へ改正されるのか?

研究会の最終報告書を見る限り、相続登記が義務化の方向へ向けて最終調整されるのは間違いないと感じます。
ただし、上記に検討したように、クリアしなければならない問題は山積みであり、政府が目指している「2020年の臨時国会に法案提出」はスケジュール的に無理があるのではないでしょうか。

相続登記の義務化は登記制度の根幹をなす部分の改正でもあるので、慎重に事を進めて頂きたいものです。

解決案のご提示|いま相続登記を行うべきか

現時点において、特別な理由もなく相続登記を放置している状態であれば、直ちに相続登記を行うことをお勧めします。

どのような罰則規定が設けられるのかは分かりませんが、今後相続登記の義務化は避けられないと予想します。

PAGE TOP