相続人の同意なしで銀行ごとに150万円まで可能

亡くなった方の預貯金を引き出す場合、相続発生後、遺産分割前の預貯金の払い戻し手続きが必要です。

2019年7月1日の「改正相続法」施行により、この故人の預貯金の払い戻しについての取り扱いが変わります

何がどう変わるのでしょうか。

改正前、改正後の変更点と手続きを解説します。

改正前(現行法での取り扱い)

遺産分割が終了するまでは、単独の相続人による故人の預貯金の引き出しはできません

相続発生前であれば、夫名義の預貯金を夫から委任を受けた妻が単独で引き出すことは可能です。
  
ところが、相続発生後の場合、その預金は遺産分割の対象財産となる(2016年12月の最高裁判例より)ため、妻単独では(相続人全員の同意がないため)引き出しができません。

遺産分割が終了するまでは金融機関から引き出しはできません。

この場合の手続きには、次の1. と2. いずれも必要となり、相当の時間がかかります。

1. 戸籍謄本を入手・確認し、相続人を確定する

一般的には、故人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要です。

これが、極めて煩雑な作業です。

戸籍謄本の確認

(1) 故人に子供がいれば、故人の出生から死亡までの連続した戸籍で確認できます。

(2) 故人に子供がいない場合は、第2順位の直系尊属(父母、祖父母等)全ての死亡の確認(110歳位までさかのぼる)が必要です。

(3) 直系尊属が全て亡くなってる場合、故人のきょうだい、甥姪までが第3順位の相続人となり、その確認は、父方・母方ともに確認しなければなりません。

(4) 認知した子の記載は「続柄」ではなく「身分事項」に記載されます。

(5)「戸籍の連続」を確認しないと、認知した子、先妻(夫)の子等を見落としてしまいます。

(6) 戸籍は、本籍地を管轄する市町村役場にて取得しますが、遠方の場合は郵送で依頼することになります。

2. 相続人全員の同意をとる

1.で確認した相続人全員の署名・押印がされた「相続同意書」とそれぞれの「印鑑証明書」が必要です。

これもまた、1. に負けず劣らず、困難を極める作業ですが、遺産総額を出してからでないと遺産分割は公平に行えませんし、各人の相続税も算出できません。

遺産分割の決定は、多数決ではなく、1人でも反対すれば成立しません。

各人、小さい時からのさまざまな思いと事情があるうえに、次のような場合はその調整が大変でしょう。(1) 海外に相続人がいる場合、領事館等で「印鑑証明書」に代わる「サイン証明」をして頂く必要が出てきます。

(2) 行方不明の方がいる場合には、その方を除いて分割協議をしても名義変更はできません。

(3) 相続人の中に未成年の方がいれば、親権者(父母)が代理人となります。ところが親権者自身が相続人でもある場合、家庭裁判所に特別代理人の選任手続きが必要です。

(4) 認知症等で判断能力がない相続人が含まれている場合、成年後見人が代理で押印することになります。

(5) 前述(3)、(4)などの場合は、相続人に未成年、成年後見人の選任手続きが大変なうえ、遺産分割の内容も原則的には法定相続分でないと家庭裁判所の許可が下りません。

改正後(2019年7月1日以降)

遺産分割前でも、単独の相続人からの依頼で故人の預貯金を引き出せるようになります。

改正前同様、相続人を確定する戸籍の取得は必要ですが、相続人全員の同意がなくても単独の相続人からの申出による払い戻しができます。

手続きは次の通りです。

1. 相続人を確定する戸籍の取得

こちらの手続きは、改正前と変わりません。

2. 単独の相続人による払い戻し手続き

以下a. b. いずれかの方法があります。a. 家庭裁判所の判断による払い戻し手続き

→ 資金使途は明示し、申し立てる必要がありますが、払い戻しの金額に上限はありません。

b. 家庭裁判所の判断を経ないで金融機関に直接依頼する

→ 単独で払い戻しをすることができる額 = 相続開始時の故人の預貯金額残高(口座基準)の1/3 × 相続人の法定相続分

ただし、金融機関ごとに150万円が上限。

払い戻し制度は、あくまでも仮払い

新たに施行される、「単独の相続人による預貯金の払い戻し制度」を利用すれば、葬儀費用、医療費等の精算、相続人の当座の生活費などを取り敢えずまかなえます。

しかし、あくまでも、相続が確定する前の段階で必要な諸経費に充当できるよう金融機関が仮に支払うだけの、いわば仮払いです。

仮払いした預貯金は、遺産分割協議の際に相続人全員で話し合い、全員の合意のうえで後日精算することになります。

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