民法改正による遺言執行者の権限

これまでの遺言執行者の役割

遺言執行者とはその名の通り、遺言の内容を執行する人です。故人が遺した遺言書の内容を実現するために指定・選任されます。「未成年者及び破産者」以外なら誰でも遺言執行者になることができ、相続人のうちの一人や信託銀行等の法人も指定することができます。「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条)」という強い権限を持っています。なお遺言執行者は相続発生後、自身が遺言執行者であることと合わせて遺言書の内容を相続人・受遺者に通知した後に、執行者としての任務を行います。

遺言執行者は、遺言の作成者が遺言書の中で指定する場合と、遺言執行者がいない・亡くなった、あるいは遺言執行者になることを拒絶する人がいた場合等に、相続発生後に家庭裁判所が選任する場合があります。

現行では「遺言執行者は相続人の代理人とみなす(民法第1015条)」とされています。遺言執行者がいなくても遺言書の内容を実現することができますが、手間と時間がかかってしまうケースもあります。例えば遺言書の内容が自分にとって不利な内容となっている相続人が、勝手に財産を処分(売却・預貯金の引き出し等)した場合、遺言執行者がいればその行為を無効にすることができ、遺言書の内容どおりの相続を実現することができます。

さらに預貯金の相続手続き等の際に、遺言執行者がいない場合には相続人全員の署名・捺印や印鑑証明書や遺産分割協議書の提出を求められることがあり、多くの労力がかかってしまう他、遺言書の内容に反対する相続人がいた場合には手続き自体がストップしてしまうこともあります。遺言執行者がいる場合には手続きを単独で行うことができますので、このような場合にもスムーズに手続きを行うことができます。

このような権限を持って、遺言書の内容を忠実に実現するために様々な手続き等を行うのが遺言執行者となります。

改正後の遺言執行者の権限はどう変わるのか

では改正後は現行と比較してどのように遺言執行者の権限が変わるのか、いくつかのポイントをお伝えします。

・遺言執行者の任務の開始

遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(改正民法第1007条)。

現行では、遺言執行者がその任務を開始したことや遺言書の内容を相続人に通知すべきということが法律上明文化されていませんでした。そのため、例えば遺言書の内容がある特定の相続人にとって不利益な内容だった場合に、その相続人に遺言執行者になったことや遺言書の内容を伝えないまま手続き等が行われ、後にトラブルとなっているケースがありました。遺言の執行は中立・公正に行うべきという観点から、今回の改正で明文化されることになりました。

・遺言執行者の地位

前述の通り、現行では遺言執行者は相続人の代理人という立場です。ただ本来であれば、遺言作成者である被相続人の遺言の内容を実現するための執行者ですから、相続人ではなく被相続人側の立場にあるべきです。このことを今回の改正で明文化しました。

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる(改正民法第1015条)。

これによって、遺言執行者は相続人の利益のためではなく、遺言者の遺志を実現するために任務を行うことが明文化されました。

・遺言執行者の権限

現行では「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法第1012条)」としています。遺言執行者は強い権限を持って遺言の内容を実現する必要がありますが、その権限の範囲があいまいとなっていました。

そこで今回の改正では、より権限を明確にするために「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(改正民法第1012条)」とし、遺言の内容を実現するための権限を持っていることが明文化されました。

遺言執行者を指定する際の注意点

このように改正後は現行よりも遺言執行者の権限・立場が明確となりました。中立・公正に、遺言者の遺志や遺言の内容を実現するために権限を行使することが、遺言執行者の任務となります。このため、遺言者が生前に遺言執行者を指定する場合には注意が必要となります。

改正後も相続人・受遺者が遺言執行者となることは可能です。ただし財産を多く受け取った相続人や受遺者は、それ以外の相続人との間に利益相反が生じ、遺言執行者として適しているのか、ということが従来から問題点として議論されています。

今回の改正で、遺言執行者はより中立的な立場で任務を行うことが明文化されましたので、生前に遺言執行者を指定する場合には相続人・受遺者ではなく、利害関係のない専門家を選ぶことも検討すべきだと考えます。

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