遺留分の基礎知識

遺言書の作成も「相続対策」の1つだが…

遺言書は、自分がいなくなったあと、家族に思いを伝えるための大切なツールです。遺言書の作成はもちろん大事ですが、その一方で、遺された家族の今後の生活を考えておく必要があります。

たとえば、夫の収入を頼りに生活してきた妻が1人遺された際、「遺産すべてを愛人に渡す」といった遺言書が書かれていたら、その妻はこれからどうやって生活をしていけばいいのでしょうか。

このような事態を防ぐため、相続人は、相続において最低限の遺産の取り分が確保されており、これを「遺留分」といいます。そして、その「遺留分をください」と請求することは「遺留分減殺請求」と呼ばれています。

遺留分については、たいてい遺言書が存在しているときに問題となります。それでは、遺留分はどれだけ確保されているのでしょうか。基本的には、法定相続分の半分と覚えておいてください(直系尊属のみ、つまり親だけが相続人となる場合は別です)。

例として、妻と子どもの2人が相続人の場合で考えてみましょう。まず、子ども1人の法定相続分は1/4となります。そして、遺留分はその半分の1/8となります。

つまり、子どもは、遺言書のとおりに分割した場合、もらえる遺産の割合が1/8に満たないときは、「ちょっと待った! 私は遺産をもっともらう権利がある!」と主張することができるわけです。

このように、遺留分は遺言書で定めた分割方法に優先します。どういうことかというと、遺言で「財産はすべて子Aに渡す」とした場合でも、子Bが遺留分を請求したら、その分(1/8)を渡さなければならないのです。遺言書に先立つ強力な権利です。

相続対策における「遺留分」3つのポイント

それでは、相続対策における遺留分のポイントを説明します。上記のとおり、遺留分は非常に強力な権利ですので、相続対策を考える際には常に気を付けておかないといけません。

① 遺留分は請求されない限りは渡す必要がない

遺留分は、「相続における最低限の取り分」です。ですが、必ずしも行使しないといけない権利ではありません。

つまり、子Bが遺言書の内容に納得して、「子Aが全部もらっても構わない」と考え、何も主張しなければ、遺留分を自分から渡す必要はありません。

また、遺留分は、ざっくりいうと相続から1年を経過すると時効になります。具体的には、遺留分権利者が相続開始・減殺すべき贈与・遺贈のいずれかがあったことを知った時からは1年、相続開始時からは10年です。この期間を経過するとタイムリミットとなり、以降は請求することができなくなります。

② 生命保険は原則遺留分の対象とはならない

遺留分の金額を計算するときに、遺産の総額が計算のもととなりますが、生命保険は遺産には含まれず、原則として遺留分の対象になりません。

生命保険は、難しい表現をすると「相続人固有の権利」とされています(簡単にいうと「受取人が問答無用で受け取れる」ということです)。

このように、生命保険は原則遺留分の対象とならないため、現金の一部を生命保険にしておく、いらない不動産を売却して、そのお金を生命保険にしておく、といった方法が相続対策に有効です。財産を多めに渡したい相続人に、より確実に渡すことができます(ただし、財産の大半を生命保険にしていた場合などには、その生命保険が「特別受益」と認定され、一部を渡さないといけない場合もあるので、注意が必要です)。

③ 兄弟姉妹には遺留分がない

実は、亡くなった人との関係により、遺留分がある相続人と、遺留分がない相続人がいます。亡くなった人の兄弟姉妹が相続人になる場合に、兄弟姉妹には遺留分はありません。

兄弟姉妹が相続人になるのは、夫婦(いずれかに相続発生予定)に子どもがいない(もしくは独身)で、両親がすでに他界しているケースですが、この場合には、兄弟姉妹には遺留分がないため、財産の遺し方を自由に決めることができます。

たとえば、遺言書で全部妻(もしくは夫)に渡すと定めるのもOKですし、お世話になった団体に全額寄付をすることも可能です。いずれの場合でも、遺言書が有効な限り、兄弟姉妹は何の文句もいえません。

このように、兄弟姉妹が相続人となる場合には、遺言書を作ることで、兄弟姉妹の遺留分を気にせずに、自由に財産を分割することが可能となります(なお、この場合でも自分の配偶者の遺留分はあります)。

いかがでしたでしょうか。相続対策を考える際には、遺留分のことは必ず考えなければなりません。そのほかにも遺留分のポイントは数多くあるので、相続対策をする場合は、専門家に相談しながら進めましょう。

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